資格・検定

刑法・罪数(科刑上一罪、観念的競合、牽連犯、併合罪)

 ややこしいわ。こう言うのは、具体例とか判例を覚えるしかないと思われる。
 問題の解き方としては、複数の罪の場合、犯罪者にとってのオマケ(科刑上一罪)ができるかどうか。できなければ、併合罪ってこと。

罪数

  • 1個の放火をして、3軒の家を焼損しても1つの放火罪。
     1つの危険が発生。
    • 対して、3人を殺害すれば、3つの殺人罪。
      3つの命を侵害。
    • 3件のスリを行えば、3つの窃盗罪。
      3つの財産権を侵害
    • 短時間(例えば、2時間)の間に、同一の場所から3回にわたり米俵を盗み出しても1罪。
      1回目に米俵を盗んだとして、2回目と3回目に別のものを盗んだ時は?

普通に1罪

  • わいせつ文書を数回にわたり領布する。
    わいせつ物頒布罪等罪(刑法175条)は、もともと繰り返し頒布されることが構成要件。なので、数回にわたって頒布しても1罪。同様に常習賭博罪も1罪。
  • 一度に数人の者に対して、わいせつ写真を頒布した。
  • AはBを殺害する準備をし、そして殺害した。その際、Bの衣服が損壊した。
    殺人既遂罪の一罪。衣服の棄損は、殺人の場合には通常に伴う行為なので、殺人罪に吸収される。
  • AはB宅から時計を盗んだ。しかし、あまり気に入らなかったので壊した。
     窃盗罪の一罪。
     犯罪終了後に違法状態が続くことになる犯罪類型を
    状態犯と言う。窃盗罪はその代表(通常、盗品は被害者のに戻らない)。
     この場合、「被害者の財産権が侵害され続ける」という点は、すでに窃盗罪(懲役10年以下)によって評価されている。したがって、時計を壊しても器物損壊罪は成立しない。
    これを、
    不可罰的事後行為といいます
    • Aは、Bが所有する時計を窃取したものの、自分が欲しかった時計ではなかったことに気付き、ハンマーで叩いて粉々にした上で山中に投棄した。
  • 1時間以内に3回に分けて同一の倉庫から財物を搬出して盗んだ場合

科刑上一罪

 数罪が成立しているが、刑の言い渡しの場面では一罪と評価するもの。
 観念的競合と牽連犯がある。
 複数の罪刑のうち、最も重い刑によって処断する。
 (A罪:3年以上5年以下。B罪:(1月以上)10年以下の懲役の場合。この場合、3年以上10年以下の懲役となる)
 (※2025年6月1日より刑法改正により禁固と懲役は拘禁刑に一本化される。)

観念的競合

 1つの行為が複数の罪に触れるケース。
 ※1つの行為で瞬間的に複数の罪になる感じか?(片方が継続的な場合は、併合罪となる?

  • 1発の銃弾で2人死亡→2つの殺人罪が成立し、観念的競合となる。
  • 職務中の響察官に暴行しケガをさせた→公務執行妨害罪と傷害罪の観念的競合
  • 公衆の面前で不同意わいせつ行為をした→公然わいせつ罪と不同意わいせつ罪の観念的競合
  • 殺意をもって被害者が性交等に同意しない意思を形成し、表明しもしくは全うすることが困難な状態にさせて性交をし死亡させた(殺人罪と不同意性交等致死罪)。
    性交と言う1つの行為で、同時に殺意を持って死亡させた。ってことか。
  • ヤカンに毒物を混ぜ2人の人物を殺害した(殺人罪と殺人罪)。
     1発の拳銃で2人死亡と同じかな?
  • 駅構内で一つの爆弾を爆発させることによって複数の駅員、乗客及び通行人を殺害した場合の複数の人に対する殺人罪。
    • 1回の焼却行為により、Bが所有する物とCが所有する物を損壊した。Bに対する器物損壊罪とCに対する器物損壊罪。
  • 自動車を運転中に不注意によりバスに衝突し、バスの乗客数名を負傷させた。(数個の過失運転致死傷罪)
  • 散歩中の2人連れをねらって散弾銃を1回発射し、その2人を負傷させた。(2個の殺人罪(未遂?))
  • 通行中の3人連れを呼び止めて、ピストルで脅迫し、その場で各人から順次金員を交付させた。(3個の強盗罪)
  • 男女2人が密会している物置小屋の扉に鍵をかけ、これを監禁した。(2個の監禁罪)
  • 公務員が職務の執行をするに当たり、その公務員を殴打して職務の執行を妨害すると同時に公務員に傷害を与えた場合。(傷害罪と公務執行妨害罪)
  • 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物であることを知って、これを賄賂として受け取った場合(盗品等無償譲受け罪と収賄罪)。
    受け取ると言う1つの行為が、盗品等無償譲受け罪と収賄罪を同時に形成しているから。

牽連犯

 犯罪の手段、結果である行為が他の罪名に触れるケース
 犯罪が連続的と言うか、流れ・手順に沿って行われている様なイメージかな?
 例えば、住居に侵入して(手段)、窃盗(結果・目的)をするみたいな。犯人は「窃盗」と言う1個の法益侵害を目的としていて、住居侵入はおまけみたいな感じ。

  • 私文書等偽造・詐欺
  • 偽造私文書等行使・公正証書原本不実記載
    • 私人であるAは、何の権限もないのに、私人であるBの名義の委任状を作成し、これを登記官に提出して行使し、B名義の不動産についての登記を申請した。(Aに成立する私文書偽造罪と偽造私文書行使罪)
  • 他人の家に侵入し、強盗をした(住居侵入罪と強盗罪)。
    • 人の住居に侵入し、被害者の反抗を抑圧して金員を奪った場合(住居侵入罪と強盗罪)。
  • 他人の家に侵入し中にいた2人の人物を次々に刺し殺した(住居侵入罪と殺人罪と殺人罪)。
     2人の人物を刺し殺しただけなら併合犯。ただ、2人をA、Bとすると。Aに対しては、住居侵入罪→殺人罪の牽連犯、Bに対しても住居侵入罪→殺人の牽連犯。住居侵入を介して、Aへの殺人罪とBへの殺人罪のすべてが牽連犯となる。これをかすがい現象と言う。 
    • Aは、不法に他人の住居に侵入し、そこに居住するB及びCの2名を殺書した。この場合、Aに成立する住居侵入罪とB及びCに対して成立する各殺人罪とがそれぞれ牽連犯の関係にあり、これらは牽連犯(かすがい現象)となる。
  • 小切手を偽造し、その偽造小切手を銀行員に示した場合の有価証券偽造罪と有価証券行使罪。

併合罪

 複数の刑が併科される。基本的には単純に罪刑を足せば良い。
 が、少し例外がある。

(併合罪)

第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

  • 併科される場合
    • A罪:10年以下。B罪:3年以下の懲役の場合は懲役13年
    • 罰金同士も併科される。
    • 懲役刑と罰金も併科される。
    • 無期懲役と罰金刑も併科される。(死刑の場合は罰金刑は併科されない。死刑のみ)
    • 没収は常に併科可。(後述の併科されない死刑も無期懲役でも)
  • 併科されない場合
    • 無期懲役と有期刑の場合は無期懲役。(罰金は併科される)
    • 死刑と有期刑の場合は、有期刑は科さない。
  • 併科されるけれどイレギュラー
    有期懲役の併合罪加重は、長期の方の2分の1まで
    • (例)A罪:10年以下の懲役、B罪:10年以下の懲役。
       この場合、片方が10年の半分の5年となる。なので、15年の懲役まで。
  • 酒酔い運転中に過失により人を死亡させた(道路交通法違反と自動車運転過失致死罪)
     飲酒運転と言う行為と事故という行為は全く違う(と言う感覚的にもわかる)。
     観念的競合から見ると、飲酒運転は継続的な行為であって、飲酒運転をしたら即事故と言うわけでもなく、1つの行為が二つ目の罪(自動車運転過失致死罪)を起こしたわけでもない。
     牽連犯としても、自動車運転過失致死罪のために、飲酒運転をしたわけではなく、牽連性はない。関連性はあると思うが。
  • 殺人をし、その死体を遺棄した(殺人罪と死体遺棄罪)。
     殺人と言う一つの行為では、死体遺棄にはならないし(観念的競合ではない)、殺人と死体遺棄の牽連性もないわな。
    • Aは、Bを殺害した後、Bの死体を山林に遺棄した。この場合、Aに成立する殺人罪と死体遣棄罪とは、併合罪となる。
  • 保険金詐欺のために放火をし保険会社に保険金の請求をし、金員を詐取した(放火罪と詐欺罪)。
     目的が保険金詐欺で、放火が手段っぽいので、一瞬、牽連犯?ってなる。
     が、別に、保険金詐欺のために、わざわざ放火しなくても他の方法がある。保険金詐欺のために手段として放火を選んだのは「お前(犯人)の主観やろ?、知らんがな(By裁判官)」ってところか。
     あと、放火犯みんなが別に保険金詐欺をするわけじゃないし(住居侵入の場合、窃盗とか強盗とかに繋がるのが普通だけど)。
  • 盗み出した通帳と印鑑で銀行に預金払戻しの請求をし、金員を詐取した(窃盗罪と詐欺罪)。
     銀行を騙すために、窃盗をすると言う流れを牽連犯とするには、無理がある。窃盗は窃盗、その後の詐欺は詐欺でしかない。
  • 被害者が性交等に同意しない意思を形成し、表明しもしくは全うすることが困難な状態にさせまたは(すでに)その状態にあることに乗じて性交をし、その翌日に犯跡を隠蔽するため殺害した(不同意性交等罪と殺人罪)。
     不同意性交の後に殺害している(同時的ではない)から、観念的競合にならない。また、殺害を目的として不同意性交をしているわけでもないから、牽連犯でもない。
     いずれにせよ、犯罪を犯してから、
    犯跡隠匿のための犯行は新たな法益侵害と考えられて、科刑上一罪(オマケ)とはならない。
  • 道端で2人の人物を次々に刺し殺した(殺人罪と殺人罪)。
     そりゃそうだよね。これが観念的競合になったら、通り魔が商店街を駆け抜けて、何人を殺害しても一罪になっちゃう。
  • 窃盗教唆をし、その盗品を有償で譲り受けた。
  • 業務上横領をし、その犯跡を隠蔽するため文書造をした。
  • 不法監禁をし、その被害者を恐喝した。
    監禁と傷害、監禁と不同意性交等致傷も併合罪。
  • 日本刀を窃取した後これを所持した場合(窃盗罪と銃砲刀剣類所持等取締法違反)
     窃取と言う一つの行為によって、窃盗罪と銃砲刀剣類所持等取締法違反を形成するので、観念的競合かと思った。が、銃砲刀剣類所持等取締法違反は継続的な犯罪なので、観念的に競合しない。イメージとして、今日盗んだとして、その瞬間は窃盗罪と銃砲刀剣類所持等取締法違反。翌日は、昨日の窃盗罪と、今日も銃砲刀剣類所持等取締法違反となって、窃盗罪と銃砲刀剣類所持等取締法違反が違うステージになってします。
  • 手形用紙を横領して手形を造した場合(横領罪と有価証券造罪)
     確かに、有価証券を偽造(目的・結果)するために、用紙を横領(手段)かも知れん。けど罪質上、繋がりがそれほどあるとは思えん。
  • 人に窃盗を教唆し、その結果窃盗を実行した者から窃取した財物を買い受けた場合(窃盗教唆罪、盗品等有償譲受け罪)。
     もし、窃盗犯自身が盗品を売買しても、別罪を構成しない(盗品を売る目的と窃盗が牽連する)。
  • 他人から金員を窃取した上、その金員を公務員に対し賄賂として供与した場合には、窃盗罪のほかに贈賄罪が成立する。
     窃盗と賄賂はつなげ(牽連し)にくいわ。まぁ賄賂は賄賂やし、窃盗は窃盗やわな。
  • 郵便貯金通帳を窃取した上、これを利用して通帳の名義人になりすまし、郵便局員を敷いて貯金払戻し名下に金員を受け取った場合(窃盗罪のほかに詐欺罪)。
  • 他人から財物を窃取した上、これを自己の所有物であるとり、担保に供して第三者から金員を借り入れた場合(窃盗罪と詐欺罪)
  • 他人に詐欺を教唆し、その結果益を実行した者を欺いて、その取した財物を取した場合(窃盗教酸罪、詐欺罪)。

 

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