読後感

何者/浅井リョウ

就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。

新潮社サイトより

タイトル:何者
発売日:2015年7月1日
出版社:新潮社
著者:浅井リョウ

 新型コロナウイルス流行前の作品。記憶に間違いがなければ、Facebook,Twitterがすでにおじさん、おばさんがメインで、Instagram,Lineが若者の必須ツールとして取って代わっていた頃かな?
 何にしてもSNSってmixi時代から(あるいはniftyserverのフォーラム時代からか?)、多少の仕様が変わっても、やっていることは皆同じで、結局は「意識だけ高い系」の人たちが、自己顕示欲を満たす道具でしかないことに異論がある人は少ないと思う。もちろん、商売上の情報発信に利用されたりもするけれど。

 そして、誰にも必要とされていない本Blogを20年近くも続けているわけだから、私自身が紛うことなき意識だけ高い系なんだが、だからこそ本作品を面白く読めたのかも知れない。
 主人公であろう拓人は当然として、本作品のもう1人の重要人物は「理香」。この2人には、自分自身と重なる部分もあったり、自分自身がもっとも毛嫌いする部分もあったりする。多かれ少なかれ、SNSを利用している人間はこの2人の要素を持ち合わせていると思う。他人に対して斜に構えてみたり、自分の努力不足で得られなかったものや心の底では羨ましく感じているものを否定してみたり・・・。
 本作の中ではそれらを含んで、一部の登場人物間での自己顕示欲や承認欲求からくるマウントの取り合いが描写されている。拓人の分析に「確かにいるよね、こんな奴。」と同調してみたり、自分自身に理香的な部分があったりしてちょっと反省をしてみたりして読み進めていた。
 SNSだけの話ではなく、就職活動の時や人間関係など共感できるところがたくさん散りばめられている。主人公・拓人の人間のイヤらしい部分を少し気持ちよくさせてくれる様な分析・解説で物語は進んでいく。
 ただ、「本の帯に“衝撃のラスト!”って書いてあるけれど、ここからどうやって衝撃のラストなんて迎えられるねん。」とも感じていた。尻すぼみな嫌な予感すらしたが、その予感はいい意味で裏切られた。ほんと、将棋の盤が180度ひっくり返る感じの衝撃のラストだった。いや、将棋の盤の様な180度の水平ではなく、高所から地面まで落とされる感じに近いかも知れない。

 一貫して、人のいやらしい部分を気持ちよくさせてくれる様な主人公・拓人の分析・解説で話が進む。将棋の盤が180度ひっくり返ると表現してけれど、と言った方がいいのかも知れない。

 10点でも20点でもいいから、自分の中から出しなよ。そうしないと、点数さえつかないんだから。

本作後半の瑞月のセリフより抜粋。

 ネムルバカと言う漫画の「駄サイクル」を思い出した。
 いやただそれだけなんだけれどね。

 

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