まとめ:行政代執行法とその他の強制処置
行政代執行法
第1条 適用
行政上の義務の確保に関しては、別の法律で定めるものを除いて、この法律の定めるところによる。
- 義務の確保の方法は、この法律か別に法律で定めないとダメ。第2条から鑑みて、命令、規則、条例でもダメ
- 別の法律を定めるものを除いてとあるので、個別の法律で簡易代執行を認めることはできる。
- 行政代執行法は代執行の一般法であり、代替的作為義務が法律で規定されていれば、(特別の定めがない限り)行政代執行法を適用する旨の明文規定がなくても、当然に適用される。
第2条 代執行の要件
代執行による履行確保の対象は、法律(法律の委任に基づく命令、規則・条例もOK)に直接命じられるか、法律によって行政庁に命じられた行為(代替的作為義務)を義務者がしないとき(不履行)、他の手段では履行の確保が難しく、不履行を放置することが著しく公益に反するときに、当該行政庁自ら代執行するか第三者に依頼してもよい。
発生した費用は義務者から徴収する。
- 法令又は行政処分に基づく代替的作為義務が対象となる。(※不作為義務や非代替的は対象外)
- 代執行の対象となる義務は、法律留保の原則から、法律の根拠が必要となる。
- 代替的作為義務が履行されない場合に、行政庁自らが義務者のすべき行為をして(第三者への依頼OK)、費用を義務者から徴収する制度。
- 代執行の権限を有するのは、義務者に対して行為を命じた当該行政庁。
- 営業停止命令は、営業をしたらダメと言う「不作為義務」になる。なので代執行できない。
第3条 代執行の手続き
代執行の予告として、履行期限を指定して文書で訓告する。それでも無視されたら、代執行令書にて詳細(時期、責任者、概算費用)を通知する。
非常の場合か緊急切迫の場合は訓告も代執行令書もすっ飛ばせる。
- 不利益処分には含まれない。(行政手続法第2条2号イ:事実上の行為)
- 非常の場合か緊急切迫の場合に口頭で訓告できる制度はない。
- 代執行に加えて、行政罰を科すこともできる。
代執行は義務の実現が目的、行政罰は過去の義務違反に対する制裁で、目的を異にするから。同様に代執行以外の行政上の強制執行と執行罰はの併科は可能。
第4条 証票の携帯
現場に派遣される執行責任者は、執行責任者たる本人であることを示すべき証票を携帯し、要求があるときはいつでも提示しなければならない。
- 要求があればなので、要求がなければ提示不要。「代執行を行う際には必ず提示しなければならない。」の設問は誤肢。
第5条 費用納付命令
実際に要した費用の額と納期日を決めて、文書をもって納付を命じなければならない。
- 口頭で命じることはできない。
第6条 費用徴収
国税滞納処分の例による。国税・地方税に次ぐ先取特権を有す。徴収金は事務費の所属に従い、国庫又は地方公共団体の経済の収入となる。
その他の強制処置(義務の履行の確保)
執行罰(行政上の義務の履行確保)
- 執行罰は過料。
- 現代では砂防法36条のみ。
- 非代替的作為義務、不作為義務、代替的作為義務の不履行に対して、その履行を強制するために科する罰。
- 執行罰は義務の履行があるまで何度でも科すことができる。
- 義務不履行者には、金銭的な負担を通じて実行性を確保する執行罰の他に、許認可の停止や取り消し、違反事実の公表などがある。(金銭負担の手段が原則ではない。)
直接強制(行政上の義務の履行確保)
義務者の義務の不履行の場合に、直接に、義務者の身体または財産に実力を加え、行政上必要な状態(義務があったのと同一の状態)を実現する作用
- 路上駐車禁止は不作為義務(車両を駐車することをしちゃダメ)。運転者に移動命令を発した上で警察官が車両を移動させるのは直接強制。
(※運転者が現場にいない時に移動命令を発することなく車両を移動させるのは即時強制) - 代表的な個別法は「成田新法」
即時強制
義務の不履行を前提とせず、目前急迫の障害を除く必要上義務を命ずるいとまのない場合に、直接に人民の身体または財産に実力を加え、行政上必要な状態を実現する作用
- 法律の根拠が必要。(地方公共団体の定める条例でもよいとされている)
- 刑罰権の行使と国民の権利、自由を侵害するおそれがあるから、その濫用防止のため憲法第35条の令状主義が適用されうる(適用されないわけじゃない)。(S47.11.22:川崎民商事件)
- 路上駐車禁止は不作為義務(車両を駐車することをしちゃダメ)。運転者が現場にいない時に移動命令を発することなく車両を移動させるのは即時強制。
(※運転者に移動命令を発した上で警察官が車両を移動させるのは直接強制) - 義務の不履行を前提としていない。
- 感染症患者の強制入院などのように、即時強制による実力行使が継続的である場合には、その状態の除去を求めて、事実行為に対する取消訴訟を提起できる。
行政罰(間接的強制手段)
- 行政罰の対象となる行為は、行政上の目的のためにする命令禁止に違反するために、反社会性を有するもの。
- 一般統治権に基づく行政上の義務違反に対する制裁。
- 義務の確保ではなく、一般統治権に基づく制裁として科される罰なので、条例により科すことができる。(行政上の義務の履行確保は法律じゃないとダメ=条例はダメ)
- 行政上の過去の義務違反に対する制裁ではあるが、義務履行確保の手段としても成り立ち得る。(間接的に義務履行を確保する。)
- 罪刑法定主義も適用される。
- 秩序罰と行政罰は併科できる。
- 行政刑罰も刑罰である以上は、二重処罰の禁止の原則が適用される。(※執行罰は繰り返し科すことができる。)
行政刑罰
刑法典上の形名による制裁として科料を科す。
- 刑法で規定する刑罰
- 刑法総則が適用され、科刑手続には、原則として刑事訴訟法が適用される。
- 裁判所において刑事訴訟法の定める手続きにより科される。
- 両罰規定あり。(刑法には両罰規定は設けられていないが、法令に特別の規定が設けられている場合がある。(例:個人情報保護法等)
- 行政上の秩序罰と行政刑罰は併科できる。
秩序罰(行政上の秩序罰、地方公共団体の秩序罰)
行政上の秩序を害する義務違反に対して過料を科す。
- 国の法令違反に対する秩序罰は、非訟事件手続法にともづいて、地方裁判所において科せられる。
- 地方公共団体の条例・規則違反は、地方自治法に基づいて長が行政行為の形式で科す。納付がないときは地方税の滞納処分の例によって強制徴収される。(※刑罰ではなく、刑法総則の適用はない)
- 届出、通知、登記などの義務を懈怠した場合などに課される罰。
- 秩序に障害を与える危険がある義務違反に対して科される罰。
- 法律の根拠を要す。
強制徴収
金銭納付義務の不履行に対し、その履行を実現するために行われる強制作用。
- 行政上の強制徴収が認められる場合には、国税の徴収の場合か、法律の定めるとこによる。
- 公法上の金銭債権について、法律で行政上の強制徴収が認められている場合には、一般司法上の債権と同様に裁判所に訴えを提起して当該債権の実現を図ることはできない。(S41.2.23)
- 個別法として国税徴収法がある。(一般法ではない。)
その他
- 国・地方公共団体が、裁判所の出訴して司法的執行ができるのは、自己の権利利益の保護救済を目的とする場合(法律上の争訟に該当する場合)や法律に特別の規定がある場合に限る。
- 財産権の主体として国民に対して場合は法律上の争訟に該当する。
- 行政権の主体として提起する場合は法律上の争訟に該当しない。逆に言うと、行政権の主体として提起する場合でも、特別の規定が法律にあればOK。
- 行政上の義務を履行させる制度は3つが主な制度で、統一的な仕組みが設けられているわけではない。
- 行政上の強制執行制度
- 公表制度等の新たな制度
- 行政罰制度