ドラッグストア拡大史:日野眞克[ひのまさかつ]:なぜDg.Sは一人勝ちできたのか!?
タイトル:ドラッグストア拡大史
初版:2021年2月15日
発行:株式会社イーストプレス
著者:日野眞克[ひのまさかつ]
著者は、月間MD(月間マーチャンダイジング)主幹。1990年代からのドラッグストア(以下、Dg.S)の拡大(発展)史を時系列にまとめられている。
一般的に引用されるダーウィンの進化論にみられる、強いものが勝ち残ったわけではなく、変化に対応できたDg.S企業の拡大の歴史が分析・解説されている。もちろん、その過程で衰退していった企業もある。
立地、品揃え、価格戦略、カテゴリー戦略などの変遷についての言及は、その時代を知る人であれば、なお面白く読める。
もちろん、その時代を知らない方でも詳細にDg.Sの移り変わりが詳細に述べられている。時代にあった立地選択(大店法から大店立地法へ。モータリゼーションの到来など)。家族から個への時代へ(製品機能あるいはターゲットの細分化による商品ラインナップの増。それに伴う家族の共有物であったものが個々人に:例としてシャンプー)。チラシの特売日設定からEDLPへ。Dg.Sの経営戦略による、取り扱い品目(カテゴリー戦略)の移り変わりや、売り上げ構成比の違いなどなど。
また、各Dg.S社長へのインタビューに関する内容も多く、興味を持って読めた。Dg.S業界に限らないとは思うが、やはり創業者あるいは企業を大きくした経営者には人と違う覚悟(苦労)や度量がある。
そしてそれら多くのDg.Sの経営陣へインタビューを行うだけでなく、本音の部分も聞き出せる著者は、長きにわたり業界での信頼を気づいてきた方だと言うことがわかる。
内容的にリテール(小売業)の専門用語も出てくることは避けられないが、専門用語には、その都度解説もあるので、リテール(小売)に関わらない業界外の人でも無理なく読める様になっている。
私が期待していた、再販価格維持行為ができなくなってからでもDgS業界では、返品の商習慣だけは継続していた(いる?)実態などには触れらていなかった。
この商習慣が良い悪いは別として、やはり業界独自の商習慣は、Dg.Sの成長因子(Dg.Sが一人勝ちできた要因)としては大きく影響したはずだと私は考えている。これに関しては一切触れられていなかったは残念。Dg.S業界からみると触れられて欲しく無い部分で、著者の立場からすると書けないところかもしれない。
(影響したはず、と考えるは素人の私の感覚であり、ひょっとすると瑣末なことなので、あえて著者はまったく触れなかったかもしれないが。)
以下、少し個人的なことを・・・。
初期の薬局・薬店は、それほど規模の大きくない製薬メーカーとの協働によるSB開発を進めた。(中略)したがって、有名メーカーのNB商品にパッケージが似ていて、売価だけが安いSB商品が多かった。
P.175
(中略)正直いってあまり品がいいとは言えない商品開発ではあったが、(中略)粗利益率改善に大きく貢献したことは間違いない。
その後、日本リーバ (現在はユニリーバ)のブランドである「ダヴ」 シャンプーと、白いパッケージとネーミングがよく似た「ダウアー」というSBのシャンプーも出た。当時、流通専門誌の記者だった筆者は、「もろパクリじゃないか」と苦笑したものである。上品ではなかったかもしれないが、一方で創業期の燃えるようなエネルギーをひしひしと感じたものだ。
まるっきりパクリ商品を出すことについて、品がいいとは言えないと断りをいれつつも、美談(?)っぽく締め括られている。
この件は、個人的な理由で引用してみた。我が家では類似品・偽物(いわゆる、バッタもの)を指して「ダウアー」と言う。つまり、我が家においてダウアーは偽物の代名詞なのだ。
新婚のころに嫁が嬉しそうに「ダヴが安かったねん」と嬉しそうに見せてくれた。それを見た私が「え!?。それSBのダウアーやで。」と直球で真実を伝えてしまったことがある。真実を知った時の嫁の悲しそうな顔は今でも我が家の語り種である。
今でこそ、コンビニ、スーパー、Dg.Sは売っているものと役割が少し(微妙に)違うだけで、今や小売業の只の一業態でしかない。しかし、当時のDg.Sはまだ、薬局と呼ばれていた時代の面影を残し、他の小売業よりも崇高に見られていた感があった(と、私は感じていた)。なので、裏路地の怪しいお店で販売していそうな露骨なバッタもの(SB)が、薬局で売られている感覚は消費者には薄かった時代である。
もちろん、安いものには理由がある。なので、間違えた嫁に落ち度がないわけではない。むしろ、よく見ずに慌てて買ったから間違えたのであって、ダウアーは何も悪く無いことは承知している。(ネットで調べてみたら、結構な数のサイトで「騙された」ってネタにされていますけどね。)
ただ、騙す様な商品であり、そして何よりもNBメーカーの開発費や広告費を掠め取る様な商品を発売していて、「エネルギーをひしひしと感じる」との表現に少し違和感を覚えざる得ない。さらには、(著者は「上品ではない」と表現しているが)私としては下品と言わざる得なず、嫌悪感をも感じる。
「やったもん勝ち」かよと、なってしまう。
以上、我が家のダウアー事件の思い出。
ドラッグストア拡大史