10年後、君に仕事はあるのか?
タイトル:10年後、君に仕事はあるのか?
初版:2020年9月10日
(2017年2月、ダイヤモンド社より刊行された『10年後、君に仕事はあるのか?-未来を生きるための「雇われる力」』に、加筆・修正。)
発行:株式会社筑摩書房
著者:藤原和博[ふじはらかずひろ]
概要
高校生へ語りかけるスタイルの優しい文体。内容も全体的には読み進めやすい。
広く世界あるいは広い世界で活躍・活動したい若者(中高生)が自己の理想を叶えるための行動の指針が書かれている。
表題は「〜仕事はあるのか?」と問うているが、内容は「あるか・ないかの二択ではない。この変化の激しい世の中に対応すべく求められる行動と考え方が示されている。
そして、その方法(世の中の変化に対応する方法)は学校の勉強だけではないが、学校の勉強の大切さ、部活を含めた遊ぶことなどあらゆる切り口から語れている。
教育改革実践家
肩書きとして「実践家」と名乗るだけあって、理想だけを語る無責任な言動を繰り返す様なことはない。むしろ厳しい意見ばかりではある。
テレビに出演している様な、社会を知らない「元教師」による評論だけしていれば良い気楽な立場の「教育評論家」とは違う様だ。
著書内でも、『一部の教育評論家が言うところの「偏差値はいらない」と言う意見も、「ロマンチストの戯言」』と切り捨てている。
ただ、この点は、学生時代に、決して高偏差値でなかった私には耳が痛いところでもある。
情報処理力と情報編集力
本著のキーワードの一つは、情報処理力と情報編集力。
この言葉の意味は本著書内で、色々な角度から検証され、その重要性について語られている。
言葉じりだけをピックアップすると、知識のインプットと知識のアウトプット、正しい答えを出す力:最適解を考え出す力、ジグソーパズルを早く完成させる力:レゴで何かを作り出す力などと表現されている。
私なりのざっくりとした理解から言葉に起こすと「基礎知識力と応用創造力」かな。
そして、これまでの養育は情報処理力が9に対して、情報編集力が1だった。しかし、これからは7:3の比率が求められると書いてある。
ただ(ここからは私の個人的感想)、私の生きた時代の9:1に対して、これからの若者は、情報処理力は9から下げることなく、情報編集力を3.9まで押し上げることで、7:3(9:3.9)の比率にシフトする必要がある。だからこそ、これまでの常識に囚われず、色んなことを経験したり、色んなことに挑戦したり、あるいは視点を大きく変えてみる思考の練習が必要だと本文では語られている。
この点に関しては、すでに何十年も前から言われ続けて、実践あるいは実施できていないことだと思う。だからこそ、自助努力で情報編集力を高めていかなくてはならない時代はこれからもまだまだ続くと思われる。
文庫版特典エッセイ(橘玲)
このエッセイだけでも読み応えがあって面白い。しかしながら、
車なら、ベンツやBMW、ランボールギーニのようなスーパーカーが男の夢だった。
でも、トランプが大統領になったこともあって、いまでは成金趣味は「ダサい」典型としてバカにされている。スティーヴ・ジョブズ(アップル創業者)のように、ものすごい成功者なのに、いつもジーンズに黒のタートルネック、スニーカーというカジュアルなファッションの方がカッコいいのだ。環境問題への意識が高まると、燃費の悪い車は敬遠されるようになり、レオナルド・ディカプリオはハイブリッド車のトヨタ・プリウスに乗っていた。
「〜こともあって、いまでは・・・」と書くと「〜」の部分が原因で、「・・・」は結果を表すことになる。例えば、「新型コロナウイルスの蔓延と言うこともあって、いまでは社会ではウェブ会議が普通になった。」と言う使い方だ。これをもう一度、本文に充ててみると、「トランプが大統領になった」ことが理由で、「成金趣味が馬鹿にされている。」と言う結果になった。と言うことになる。
しかしながら、「成金趣味」と言う言葉はwikipediaによると、すでに江戸時代後期からあったらしい。私が知る限りでは、私の幼い頃の記憶にすでにあり、その当時から意味としては、「生まれ持っての洗練された上流階級ではなく、下民が急にお金に不自由することがなくなって、そのお金の使い方や購入物のセンスは下民のままであり、「ダサい」「カッコ悪い」「悪趣味」などと揶揄する負のイメージ」を背負った言葉である。
別にトランプ氏が大統領になったからと言って、特に成金趣味に対する嫌悪感が強くなったわけでも広がったわけでもなく、ましてやその言葉の定義が何かしら変わったわけでもない(と思う)。私が知らないだけで、令和になり、東京のナウなヤングが集う様なおしゃれな界隈では、「トランプ大統領って成金趣味で、ダサいよね。時代はヒッピーだよ、ラブ&ピースだよ!」なんて、新型コロナにも臆することなく若者たちが夜な夜な語り合っているのかも知れませんが。
少なくとも私は、「トランプ憎し」のブチ込み方にちょっと辟易とした。後半のスティーヴ・ジョブズやレオナルド・ディカプリオのくだりも、ごく一部の極端な例を持ってきて、さもそれが広く支持されているかの様に断定するのも無理がありすぎる。正直なところ「5月1日にその辺の公演の集会でマイクでも持って叫でる労組のスピーチレベルやな。」って感じた次第。
(補足:最初にも書いたとおり、橘玲氏のエッセイも、上記を除くと、ぎゅっといろんなエッセンスを詰め込んだ読み応えのある内容です)