まとめ:国家賠償法と損失補償
まとめ:国家賠償法と損失補償
第1条
国・公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
(求償権)その公務員に故意又は重大な過失があつたとき。
- 判例
- 公務員
- 都道府県による児童福祉法の措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童を養育監護する施設の職員等の当該監護行為は公権力の行使に当たる(S19.1.25)。
- 「公権力の行使」をするという観点から独立行政法人や民間の委託先も国家賠償法1条の対象となりえる。
- 職務を行う
- 外から客観的に職務を行っているように見えれば、自己の利をはかる糸をもってする場合であっても、職務を行っていることと取り扱うこととしている(外形標準説)。
- 非番の日にA県の警察官が制服を着て行った犯罪行為に対して、A県に損害賠償を命じた(S31.11.30)
- 警察官でない者が、警察官の外観を装った場合は、国家賠償責任は生じない。
- 「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれる。
- ※プールへの飛び込み授業「事故の発生を防止するために十分な措置を講じるべき注意義務があることはいうまでもない」(S62.2.6)
- 不作為も含む
- 警察官が被疑者所持のナイフを一時保管しないと言う不作為が違法と判断された。(S57.1.19)
- 外から客観的に職務を行っているように見えれば、自己の利をはかる糸をもってする場合であっても、職務を行っていることと取り扱うこととしている(外形標準説)。
- 故意又は過失によって
一連の行為のうち、誰かの故意・過失による違法行為なければ、被害が発生しなかったと認められたら賠償責任を負う。(S57.4.1) - 国又は公共団体がこれを賠償の責に任ずる(代位責任説)
公務員個人もその責任を負うものではない。(S30.4.19)
公権力の行使に当たる場合は、公務員以外であっても被用者個人および使用者も損害賠償責任を負わない。(H19.1.225)
第2条
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。(無過失責任)
(求償権)他に損害の原因について責に任ずべき者があるとき。
- 設置又は管理の瑕疵(参照:判例)
- 第2条の「管理」には公務員の管理義務違反の含まれる。
- 営造物が通常有すべき安全性を欠いていること。
- 未改修河川の水害については、瑕疵の判断の際に、時間的、財政的、技術的及び社会的制約な制約が考慮される。同種同規模の河川の管理の一般水準に比べられる(過渡的安全性)。(大東水害訴訟。S59.1.26)。
- 改修済みの河川の水害については、その改修や整備がされた段階において想定された洪水から、当時の防災技術の水準に照らして通常予測し、かつ回避し得る水害を未然に防止するに足りる安全性が要求されるとしています(段階的安全性)。(多摩川水害訴訟。H2.12.13)。
- 発生した欠陥を時間的に修復することが無理であり、瑕疵はない。(S50.6.26)
- 通常有すべき安全性
用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用しないという注意義務は、利用者である一般市民の側が負うのが当然である。(平5.3.30)
(※テニスの審判台に登って遊んでいた子供が、倒れた審判台の下敷きになって死亡した事件。普通に考えたら、側にいた親が馬鹿なだけ。) - 供用関連瑕疵
営造物そのものには瑕疵はないが、適切な制限を加えない状態で営造物を使用した場合に、当該営造物の利用者以外の第三者との関係で瑕疵を認めようとするもの。- 大阪空港訴訟(S56.12.16)
第3条
公務員の「選任・監督する者」と「俸給・給与・その他の費用を負担する者」、あるいは公の営造物の「設置・管理にあたる者」と「設置管理の費用を負担する者」が違っても、費用負担者も損害を賠償する責に任ずる。また、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。
第4条
前3条の規定以外は、民法の規定による。
- 失火責任法
民法第709条の規定は、失火の場合には適用しない。ただし、失火者に重過失があるときは除く(適用する)
民法第709条:故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(※「失火」(過失から起こした火災)の場合の言葉の通り、故意は失火責任法では逃れられないと思われる。) - 自動車損害賠償保障法
第5条
民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。
- 憲法17条違反で無効
- 書留郵便物について郵便業務従事者の「故意または重大な過失」によって損害が生じた場合について、免除又は制限をしている規定
- 特別送達郵便物について郵便業務従事者の「軽過失」によって損害が生じた場合まで、国の国家賠償責任の免除し又は制限している規定
第6条
外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
損失補填
- 損失補償の意味
- 学説
- 適法な公権力の行使により特定人に生じた
- 財産上の特別の犠牲に対し
- 全体的な公平負担の見地からこれを調節するためにする財産的補償
- 憲法29条3項
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる- 奈良県ため池条例事件(S38.6.26)
災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上已むを得ないものであり、当然受忍しなければならない責務というべきものであって、憲法29条3項の損失補償はこれを必要としない。ただし、特別の犠牲を課したと認められる場合には補償請求をする余地はある。 - 人の生命や身体に加えられた侵害による損失(精神的損害や人的損害)は補償の対象とならない。財産権を奪う「公用収用」に加え、一定の利用制限を課す「公用制限」も含む。
- 奈良県ため池条例事件(S38.6.26)
- 学説
- 正当な補償
- その当時の経済状況において成立することが考えられる価格に基づき、合理的に算出された相当額。(※かかる価格と完全に一致することを要求するものではない。)
- 完全補償説(通説):収用や使用する時点での状況において成立することが考えられる価格を完全に補償する。
土地収用法に基づく土地収用は完全補償説。 - 相当補償説:公正な算定基準に基づいて算出された合理的金額
自作農創設特別措置法に基づく農地買収は相当補償説
- その他
- 憲法では補償の時期に関して明言はない。なので、補償が財産の高世を交換的に同時に履行されることを保障されているわけではない。つまり、財産権の収用や制限に対して、先にあるいは同時に補償されるとは限らない。